生前贈与とは
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずるとされています(民法第549条)。
「生前贈与」は存命のうちに贈与を行うことで、生前対策の意味合いを持つことになります。

生前贈与の対象財産には現金・預貯金・動産・不動産などがあります。
贈与をする人(贈与者)と贈与を受ける人(受贈者)の意思が合致することで成立するため、口約束でも成立するものの、贈与契約書を作成することをおすすめします。
なお、不動産の贈与の場合には登記申請手続きにおいて贈与契約書(またはそれに類するもの)が必要になります。
生前贈与と相続の比較
生前贈与と相続を比較すると下記のようになります。
生前贈与は即座に財産移転をすることができます。一方で相続税と比べて高額な贈与税が発生する可能性がありますので、事前に十分な検討が必要です。
生前贈与 | 相続 | |
あげる人(贈与者・被相続人)の意思 | 必要 | 不要 (遺言等で意思表示可能) |
もらう人(受贈者・相続人)の意思 | 必要 | 必要 |
財産移転のタイミング | 贈与時 | (被相続人の)死亡時 |
税金 | 贈与税 | 相続税 |
贈与税について
贈与税の計算方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があります。
贈与税に関する具体的内容は、税理士または税務署にご相談ください。
暦年課税
年間110万円を超える財産をもらった人に贈与税がかかります。
注意したいのは、贈与者ではなく受贈者に贈与税がかかることと、受贈者がもらった財産の総額に対して贈与税がかかるということです。したがって、複数の贈与者から110万円以内の財産をもらっていたとしても、総額が110万円を超えると贈与税が発生してしまいます。
贈与税は110万円を超える額に対して贈与税率(10~55%)と控除額をあてはめて算出します。
なお、特例税率と一般税率があります。
相続時精算課税
贈与年の1月1日の時点で下記の両方に該当する場合にのみ利用できます。
・贈与者が60歳以上の父母や祖父母
・受贈者が18歳以上の子や孫
相続時精算課税では累計2,500万円までは贈与税がかからず、相続のタイミングで精算する仕組みです。
相続時精算課税を使う場合には事前に届出書を提出する必要があります(取り消し不可)。
(財産に関する)生前対策と相続後対策
財産に関する対策として、生前(相続前)対策と相続後対策で整理すると、下図のようになります。
贈与税・相続税に関する具体的内容は、税理士または税務署にご相談ください。
生前対策では、生前贈与の他、遺言・家族信託・生命保険など、さまざまな打ち手があります。
一方、相続後の対策では、小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減など相続税に関する対策(およびそれを考慮に入れた遺産分割方法)など限られています。
なお、生前対策はあくまでもご本人の意思によるものであることは、念頭に入れる必要があります。

不動産の生前贈与
不動産を生前贈与する場合、事前に検討すべき重要論点は、税金問題、他の生前対策との比較です。
不動産の生前贈与における税金
不動産の生前贈与における税金には、贈与税、不動産取得税、登録免許税があります。
いずれも「贈与を受ける方」が納税することになります。
贈与税
贈与税が発生する場合、贈与を受けた方が申告・納付します。
なお、暦年課税や相続時精算課税の適用判断も忘れずに行うべきです。
不動産取得税
生前贈与の場合には、原則不動産取得税が発生します(土地や住宅用家屋には軽減税率あり)。
また、居住用中古住宅で一定の要件を満たす場合には軽減措置があります。
登録免許税
生前贈与の登記申請時に支払う税金です。
固定資産評価額の20/1000(2%)に相当する額となります。
相続税の場合は0.4%ですから、相続・遺言に比べて高額となります。
他の生前対策との比較
ここでは、不動産の生前贈与と遺言の比較を説明します。
生前贈与は贈与契約になりますから、「贈与をする方」と「贈与を受ける方」の意思が合致して成立します。
よって、早期に不動産の所有権を移転したい場合には効果があります。
一方、遺言は遺言者の意思によるものですから、譲り受ける方の意思は問題にはなりません。
また、不動産の所有権移転は、遺言者の死亡時のタイミングとなります。
遺言のメリット
・贈与税は発生せず、相続税の対象となる。
・登録免許税は生前贈与に比べて割安である。
生前贈与のメリット
・遺言に比べて、不動産の移転を早期に確定できる(贈与契約のタイミング)。
・暦年課税や相続時精算課税を適用することが可能であれば、税金の軽減が期待できる。