兄弟姉妹の相続放棄で失敗しないための5つのポイント

ここでは被相続人の兄弟姉妹が、相続放棄を検討する場合に注意すべき点について解説していきます。

目次

【Point1】兄弟姉妹が相続人になるケースとは

相続人の優先順位を確認します

相続人の優先順位について確認しておきます。
まず、配偶者は常に相続人となります(民法890条)。
血族相続人は、次の順位で相続します(民法887, 889条) 。
第1順位 直系卑属(子、孫等)
第2順位 直系尊属(父母、祖父母等)
第3順位 兄弟姉妹

相続人の優先順位ー直系卑属・直系尊属・兄弟姉妹

上図の場合、被相続人の相続人は配偶者と血族相続人第1順位の子(長男および長女)となります。
兄弟姉妹は第3順位の血族相続人ですから、被相続人に子等の直系卑属がいる場合や、直系卑属がいない場合でも父母等がいる場合には、兄弟姉妹が相続人になることはありません。

兄弟姉妹が相続人になる4つのパターン

兄弟姉妹が相続人になる場合は、以下の4つのパターンがあります。

  • 第1順位・第2順位が共にいない
  • 第1順位が全員相続放棄+第2順位がいない
  • 第1順位がいない+第2順位が全員相続放棄
  • 第1順位が全員相続放棄+第2順位が全員相続放棄

続けて兄弟姉妹が相続人になる各パターンについて説明していきます。

①第1順位・第2順位が共にいない

被相続人に子・孫等がおらず(既に死亡の場合も含む)、父母・祖父母等も既に死亡している場合です。

(例1)被相続人には子がおらず、第2順位の父母・祖父母等も既に死亡している場合

→ 下図の場合、相続人は配偶者、兄、妹となります。

兄弟姉妹が相続人になる場合ー①第1順位・第2順位が共にいない(例1)
(例2)被相続人の第1順位の子、第2順位の父母・祖父母等が既に死亡している場合

→ 下図の場合、相続人は兄と妹になります。

兄弟姉妹が相続人になる場合ー①第1順位・第2順位が共にいない(例2)

②第1順位が全員相続放棄した+第2順位がいない

被相続人の子(孫)が全員相続放棄し、父母・祖父母等が既に死亡している場合です。

(例)被相続人の長男・長女が共に相続放棄し、父母・祖父母等が既に死亡している場合

→ 下図の場合、相続人は兄と妹になります。

兄弟姉妹が相続人になる場合ー②第1順位が全員相続放棄+第2順位がいない

③第1順位がいない+第2順位が全員相続放棄した

被相続人に子・孫等がおらず(既に死亡の場合も含む)、父母・祖父母等が全員相続放棄した場合です。

(例)被相続人には子がおらず、父母が相続放棄した場合

→ 下図の場合、相続人は配偶者、兄、妹となります。

兄弟姉妹が相続人になる場合ー③第1順位がいない+第2順位が全員相続放棄

④第1順位が全員相続放棄した+第2順位が全員相続放棄した

被相続人の子(孫)が全員相続放棄し、続けて父母・祖父母等が全員相続放棄した場合です。

(例)被相続人の長男・長女が共に相続放棄し、父母が相続放棄した場合

→ 下図の場合、相続人は兄と妹になります。

兄弟姉妹が相続人になる場合ー④第1順位が全員相続放棄+第2順位が全員相続放棄

【Point2】相続放棄を検討すべき場合

兄弟姉妹の相続放棄を検討される場合には、以下の場合があります。

マイナスの財産がプラスの財産より多い

債務が資産を上回ることが明らかな場合の手段として使われます。
兄弟姉妹の相続放棄に限らず、子や父母が相続放棄をする場合でも同様です。

遺産分割協議に関与したくない

兄弟姉妹間での遺産分割協議に関わりたくない場合や、共有不動産等の遺産分割協議の煩雑さを回避するための手段として使われる場合があります。
例えば、異母兄弟や兄弟姉妹の代襲相続等の場合では日ごろ交流がほとんど無いことも多く、遺産分割協議の手間を回避したいと思われる相続人も少なくありません。
また、相続財産が不動産のみの場合では兄弟姉妹で共有状態を避けるため、当該不動産を相続する方を除く他の相続人が相続放棄をする方法が取られることもあります。

相続問題に関わりたくない

疎遠な親族関係である場合や、そもそも相続問題をはじめ一切関わりたくない場合が想定されます。

【Point3】兄弟姉妹の相続放棄では期限に注意!

兄弟姉妹の相続放棄の期限は「知ったときから3ヶ月以内」

相続放棄の期限は、兄弟姉妹の場合でも他の子や父母等の場合と同様です。つまり、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に、家庭裁判所で手続きを行う必要がります。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、被相続人の死亡を知り、かつ、自分が相続人になったことを知ったときです。

例えば、下図のように被相続人の死亡時に子や父母がいた場合、兄弟姉妹は被相続人が亡くなった時点では相続人ではありません。ここで、子が全員相続放棄をしたら、第2順位の父母等が相続人となります。続けて、父母等が全員相続放棄をしたら、第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。

兄弟姉妹の相続放棄の期限(例)

相続放棄の期限が進行するのは、父母等が全員相続放棄をしたことを「知った時」からですので、父母等が全員相続放棄をしたことの連絡を受けた時(必ずしも連絡がくるとは限りません)や、債権者等から被相続人の相続人宛てに書面等が到達した時となります。したがって、当初は全く相続人となることを考えもしなかったのに、子や父母等の相続放棄より、結果として相続人となることはありえます。

相続放棄する場合には迅速に手続きを!

相続放棄をする場合は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に手続きをする必要があります。
特に兄弟姉妹が相続人となる場合は、(自分が相続人であることを証明するため)必要となる戸籍謄本等が多くなります。戸籍謄本等の収集には一定の時間がかかりますので、迅速に着手するようにしてください。

【Point4】相続放棄手続きの具体的な方法

相続放棄手続きは、家庭裁判所に相続放棄の申述をします。
管轄裁判所は相続開始地(被相続人の最後の住所)を管轄する家庭裁判所です。

相続放棄手続きの手順

  •  被相続人の住民票除票や、戸籍等を入手します。
  • 相続放棄申述書を作成し、①で入手した添付書類と合わせて、家庭裁判所に提出します。
  • 家庭裁判所から申述人に照会書が届くので、回答して返送します。
  • 家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されると、相続放棄申述受理通知書が届きます。
  • 相続放棄受理証明書が必要な場合は、別途家庭裁判所に申請して入手します。

兄弟姉妹の相続放棄手続きは全員でやるべき?

相続放棄では相続人全員の同意が必要とされないので、個人の意思で相続放棄の手続きをすることができます。手続きごとに申請書類を用意する必要がありますので、全員まとめて申請したほうがコストが低いと言えます。
一方で、全員の意向をまとめるのに手間取ると相続放棄の申請期限に引っかかるリスクもありますので、状況に応じて判断すべきです。なお、相続放棄手続きをした場合、他の兄弟姉妹にその連絡が届くことはありません。

相続放棄したことを他の兄弟姉妹に連絡すべき?

一般的には相続放棄をした場合には、他の相続人(それに伴い新たに相続人になる方を含む)に連絡をしてあげたほうが親切であると言えます。もっとも関わりたくない場合もありえますので、個別にご判断いただくことになるかと思います。

【Point5】兄弟姉妹の相続放棄でよくあるご質問

兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡している場合はどうなる?

兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡している場合、代襲相続する者がいる場合にはその者(兄弟姉妹の子)が相続人になります。
ただし、第3順位(兄弟姉妹)では再代襲が認められていないため、甥や姪が相続人になることはあっても、その甥や姪の子が相続人になることはありません。

(例1)兄が既に死亡しており、兄の子(甥)がいる場合

→ 下図の場合、兄の子(甥)は被相続人の兄を代襲相続するため、相続人は甥と妹になります。

兄弟姉妹の代襲相続ー兄弟姉妹が被相続人より先に死亡している場合(例1)
(例2)兄が既に死亡しており、兄の子がいない場合

→ 下図の場合、相続人は妹のみとなります。

兄弟姉妹の代襲相続ー兄弟姉妹が被相続人より先に死亡している場合(例2)

相続放棄した場合、自分の子供が相続人になる?

相続放棄をすると初めから相続人とならなかったものとみなされます。
自分が相続放棄をした場合は初めから相続人とならなかった訳ですから、自分の子供が相続人になることはありません。

相続放棄をしたら、生命保険金は受け取れなくなる?

生命保険金は、原則として受取人の固有財産となりますので、相続放棄をしても受け取ることが可能です。

相続放棄できない場合もある?

単純承認事由にあたる行為をしていた場合は、相続放棄はできなくなります。

単純承認事由には、①相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為等を除く)、②期限内に限定承認または相続放棄をしなかったとき、③相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときが該当します。

例えば、遺品の処分や持ち帰り、財産の使い込み等は単純承認に該当しますので、注意してください。

以上が兄弟姉妹の相続放棄で失敗しないポイントです。
また、相続手続きに関するご相談は初回無料で受け付けております。
気にある点がありましたら、些細なことでも結構ですのでお問い合わせください。

この記事を書いた人

なか司法書士事務所
司法書士 中 英康
札幌市中央区(狸小路7丁目近く)の司法書士事務所で代表を務める。
一般個人向けに相続手続・生前対策・不動産登記全般、法人企業向けに経営基盤整備支援・経営者の相続支援・商業登記全般を取り扱う。

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