相続手続きの流れを9ステップで解説

ここでは相続手続きの流れについて、順番に9個のステップで解説していきます。
相続手続きを行う際には、最初に全体像を把握した上で、手順を踏んで正確に相続手続きを進めることが必要になります。

目次

【Step0】まず相続手続きの流れをイメージします

相続手続きの流れを示した図ー全体

相続開始から名義変更手続きまでの流れは、上図のとおり「1. 遺言書の確認」「2. 相続人の調査・確定」「3. 相続財産の調査・確定」「4. 相続分の考え方」「5. 遺産分割の連絡・通知」「6. 遺産分割協議(話し合い)」「7. 遺産分割協議書の作成」「8. 名義変更手続き(不動産)」「9. 名義変更手続き(預貯金等)」の順番となります。
なお、相続放棄をされる方がいる場合は「10. 相続放棄手続」、遺産分割協議がまとまらない場合は「12. 遺産分割調停・審判」など、点線で囲まれた手続きが必要となります。

【Step1】遺言書の有無を確認します

相続手続きの流れを示した図ー遺言書の確認

遺言は法定相続より優先されます

遺言は、被相続人が自身の財産を誰にどのように相続させる(遺贈する)かについて、自分を意思を表示するものです。つまり、遺言は法定相続よりも優先されます。
遺言は、遺言者の意思を尊重すると共に、相続人間の争いを防ぐための仕組みであると言えます。

遺言書の有無を確認します

被相続人が遺言をしていたか否かの調査を行います。
遺言書について何も聞いていない場合でも、遺言書を遺している可能性もありますので、被相続人の金庫・机回り・仏壇、貸金庫など丁寧に調べるようにしてください。

公正証書遺言、保管制度利用の自筆証書遺言については調査することができます。
平成元年1月以降に作成された公正証書遺言は、日本公証人連合会の遺言検索システムから検索ができます。
法務局における保管制度利用の自筆証書遺言は、法務局に対して遺言書保管事実証明書の交付請求をして、保管の有無を確認することができます。

自筆証書遺言では検認手続きが必要になることがあります

自筆証書遺言(保管制度利用の自筆証書遺言を除く)では、家庭裁判所で遺言の検認手続きが必要になります。
家庭裁判所では、申立人、相続人等利害関係者の立ち合いの上で、遺言書を開封して検認を行います。検認が終わると、遺言書検認済みの証明書が発行されます。
なお、封印された遺言書を検認手続きをせずに、開封等した場合には5万円以下の過料が課されますので、注意が必要です。

【Step2】相続人を調査・確定します

相続手続きの流れを示した図ー相続人の調査・確定

相続人は配偶者と血族相続人ですが、血族相続人には順位があります

相続人は、配偶者と血族相続人(血縁のある親族)になります。
まず、配偶者は、常に相続人となります。配偶者がいなければ、相続人は血族相続人だけとなります。

血族相続人は、次の順位で相続します 。
第1順位 直系卑属(子、孫等)
第2順位 直系尊属(父母、祖父母等)
第3順位 兄弟姉妹

先順位の相続人が一人でもいれば、後順位の血族は相続人になりません。
例えば、子がいない夫が死亡した場合、相続人となるのは妻と夫の親です。夫の兄弟姉妹は相続人にはなりません。もっとも、夫の親が共に相続放棄をしたような場合は、兄弟姉妹が血族相続人として相続することになります。

被相続人よりも先に死亡している場合には代襲相続に注意!

代襲相続とは、被相続人の相続開始以前にすでに死亡している場合や、相続欠格や廃除によって相続人資格を失っている場合に、その子が代わりに相続をするという仕組みです。

血族相続人の順位に応じて、下記のとおり代襲相続となります。
第1順位:子がすでに死亡している場合は、その子の子(被相続人の孫)が代襲相続します
第2順位:父も母もすでに死亡している場合は、祖父母が代襲相続します
第3順位:兄弟姉妹がすでに死亡している場合は、その兄弟姉妹の子(甥や姪)が代襲相続します

再代襲は兄弟姉妹相続では認められません

血族相続人の順位に応じて、下記のとおり再代襲相続となります。
第1順位:直系卑属(ひ孫、玄孫等)がいる限り再代襲が認められます
第2順位:直径尊属がいる限り再代襲が認められます

なお、第3順位(兄弟姉妹)の代襲は、再代襲が認められていません。よって、甥や姪が相続人になることはあっても、その甥や姪の子が相続人になることはありません。

戸籍謄本等を取得します

相続手続きをする際には、一般的には下記の戸籍謄本等(戸籍の束)が必要になります。
・被相続人の出生から死亡までの経過が分かる全ての戸籍(除籍)謄本
・相続人の戸籍謄抄本(被相続人が死亡した日以後の証明日のもの)

戸籍謄本等は、本籍地の市区町村役所より入手します(郵送でも可能)。
まず出生により親の戸籍に入りますが、結婚すると親の戸籍から除かれ(除籍)、新規に夫婦の戸籍が作られます(就籍)。本籍地を異なる市区町村に変えると、移した先の市区町村で新しい戸籍が作られます(転籍)。また、法改正等により新様式の戸籍に変更されることがあります(改製)。

新戸籍がつくられると、元の戸籍の記載事項の内、一定の事項が移し替えられるため、現在の戸籍からさかのぼって出生時の戸籍まで入手する必要があります。
相続手続きで必要な戸籍謄本は、時系列でつながっている必要がありますので、細心の注意が必要です。

なお、戸籍の広域交付制度(令和6年3月1日施行)を利用できる場合であれば、比較的簡便に戸籍謄本等を取得することもできます。

【Step3】相続財産を調査し、財産目録を作成します

相続手続きの流れを示した図ー相続財産の調査・確定

相続財産の全てが遺産分割の対象となる訳ではありません

相続人は相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することになりますが、相続財産の全てが遺産分割の対象になる訳ではありません。
遺産分割の対象とならない物には、貸金債権、損害賠償請求権、生命保険金、遺族給付等があります。

相続財産の調査は漏れなく行います

プラスの財産に加えて、マイナスの財産(負債)がある場合も漏れなく調査を行います。

プラス財産の調査

不動産は、登記済証、固定資産課税明細書、固定資産課税台帳等から調査します。
また、必要に応じて公図や登記情報等をもとに周辺調査を行います。

金融資産は、通帳、キャッシュカード、金融機関からのダイレクトメール等をもとに、関係金融機関に対し照会する方法で調査します。

マイナス財産の調査

負債の調査は、未払い費の有無確認、信用情報機関への情報開示請求等により行います。

財産目録を作成します

各財産を評価して財産目録を作成します。

【Step4】遺産分割協議前に相続分の考え方をおさえます

相続手続きの流れを示した図ー相続分の考え方

Step1の結果、遺言があり・財産帰属がすべて確定する場合には、(上図の右矢印のとおり)そのまま名義変更手続きとなります。一方で、それ以外の場合には、遺産分割手続きに入ることになります。
Step4では、遺産分割協議に入る前に法定相続分や指定相続分などの相続分の考え方についておさえます。

法定相続分とは相続人が主張できる相続分のことです

法定相続分は、相続人の地位(被相続人との関係)から導かれる相続分です。これは分数で示される抽象的な割合であり、各自が主張することができる相続分を意味します。
法定相続分は、Step2の相続人の調査・確定の結果である相続人の構成により定まります。

相続人の構成法定相続分
配偶者と子配偶者:1/2、子:1/2
配偶者と親配偶者:2/3、親:1/3
配偶者と兄弟姉妹配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4
配偶者のみ配偶者:1

相続人が配偶者、長男、長女の計3名の場合、配偶者:2/4、長男:1/4、長女:1/4となります。
相続人が配偶者、兄、弟の計3名の場合、配偶者:6/8、兄:1/8、弟:1/8となります。

遺言で相続分を指定することもできます

被相続人は、遺言により相続分を定めることができます(これを指定相続分と言います)。
例えば、不動産の相続について、長男に2/3、長女に1/3の割合で相続させる旨の遺言とすることができます。この場合、被相続人の意思として、法定相続分よりも指定相続分が優先されます。

遺産分割協議の結果は法定相続分や指定相続分に優先します

法定相続分はあくまでも相続人各自が「主張することができる分」ですから、遺産分割協議の結果、それと異なる相続分で分け合うこともできます。
また、遺産分割協議の結果、指定相続分と異なる配分で分け合うこともできます。
遺産分割協議と他の相続分の優先関係は、以下のとおりです。
 遺産分割協議 > 遺留分 > 指定相続分(遺言) > 法定相続分

【Step5】遺産分割協議の連絡・通知を行います

相続手続きの流れを示した図ー遺産分割の連絡・通知

遺産分割協議では相続人全員の参加が必要です

遺産分割協議は相続人全員参加が求められるため、相続人全員に対して遺産分割協議のための連絡が必要になります。全員参加と言っても一堂に会することが必ずしも求められる訳ではなく、話し合いの内容が全員一致でまとまるのであれば問題ありません。話し合いの結果は、遺産分割協議書(実印+印鑑証明書付き)でまとめられることになります。

疎遠または面識のない相続人を除いて遺産分割協議をすることはできません

全員で協議をしない遺産分割は無効となりますので、疎遠な相続人、相続人調査で判明した相続人など全ての相続人に遺産分割に関与してもらう必要があります。

【Step6】遺産分割協議の話し合いをします

相続手続きの流れを示した図ー遺産分割協議

遺産分割協議では円滑な運営が求められます

預貯金や不動産等の個別財産につき、各相続人が取得する財産やその割合を話し合いで決めます。進行に伴い、各自の分割案(要望)を持ち寄り、話し合いで調整・集約します。

民法には遺産分割の具体的な基準は無く、民法906条で「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と規定されているだけです。
被相続人の思いをくみ取りながら、相続人全員が遺産分割をまとめようとする意識が大切になります。

遺産分割には4つの方法があります

遺産分割には、下記の4つの方法があります。
財産の内容や性質に応じて最適な方法を選択するようにしてください。

現物分割現物をそのまま配分する方法
換価分割相続財産を売却し、その代金を配分する方法
代償分割現物を特定の相続人が取得し、取得した者が他の相続人に対し具体的相続分に応じた金銭を支払う方法
共有分割共有とする方法

【Step7】遺産分割協議書を作成します

相続手続きの流れを示した図ー遺産分割協議書の作成

遺産分割協議の結果は書面に残します

遺産分割協議書は、相続人全員で合意した協議内容を正確に記載した書面です。
遺産分割協議(話し合い)の結果は、後日の紛争防止のため、書面に残しておくことが必要です。
遺産分割協議書には、各相続人の署名・捺印(実印)が必要となります。さらに、実印の印鑑証明書を添付します。

【Step8】不動産の名義変更手続きをします

相続手続きの流れを示した図ー名義変更手続き(不動産)

不動産の名義変更(相続登記)手続きは管轄法務局に申請します

不動産の名義変更(相続登記)手続きは、管轄となる不動産所在地の法務局に申請します。
相続登記申請書を作成して、相続による所有権移転登記等の申請を行います。

相続登記の種類に応じて申請内容が異なります

法定相続や遺産分割協議など相続登記の種類に応じて、下記のとおり申請内容が異なります。

法定相続による相続登記各相続人が単独で申請できます。ただし、相続人全員分の持分を登記する必要があります。
遺産分割協議による相続登記遺産分割協議により不動産を取得した者とそれ以外の相続人全員による共同申請となります。
遺言による相続登記
(相続と解される場合)
遺言によって不動産を取得した者が単独で申請できます。
遺言による相続登記
(遺贈と解される場合)
・遺言執行者がいる場合
 遺贈によって不動産を取得した者と遺言執行者による共同申請
・遺言執行者がいない場合
 遺贈によって不動産を取得した者と他の相続人全員による共同申請

夫婦共有不動産で配偶者である相続人が住所変更等していた際には、相続登記の前に住所変更登記が必要になります。

【Step9】預貯金等の名義変更手続きをします

相続手続きの流れを示した図ー名義変更手続き(預貯金等)

預貯金の名義変更をします

被相続人名義の預貯金の口座は、凍結されます。
預貯金を引き出すためには、遺産分割協議をした後、金融機関に対し相続手続申請をします。

株式の名義変更をします

被相続人名義の株式を、相続人名義に変更します。
株式売却する場合でも、一旦相続人名義に変更する必要があります。


以上が相続手続きの流れの9ステップです。
各ステップの関連記事もご参考にしてください。
また、相続手続きに関するご相談は初回無料で受け付けております。
気にある点がありましたら、些細なことでも結構ですのでお問い合わせください。


この記事を書いた人

なか司法書士事務所
司法書士 中 英康
札幌市中央区(狸小路7丁目近く)の司法書士事務所で代表を務める。
一般個人向けに相続手続・生前対策・不動産登記全般、法人企業向けに経営基盤整備支援・経営者の相続支援・商業登記全般を取り扱う。

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