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旧民法からの変遷で法定相続分を解説

相続では、相続開始当時の法律が適用されるのが原則です。
相続開始時期によって適用される法令(法律を含む)が異なりますので、特に長期未了の相続に限らず、相続開始時期に応じて適用される法令を確認することが重要です。
ここでは、相続開始を下記の5つの期間に分類して解説します。

1. 相続開始が明治31年7月16日から昭和22年5月2日まで(旧民法)

この期間は明治31年7月16日に施行された旧民法(親族相続編)が適用されます。最大の特徴は、家制度を基本とする家督相続遺産相続の2種類が存在していたことです。

家督相続

家督相続人は1名に限られ(単独相続の原則)、戸主の地位のみならず、それに伴う財産や債務、祭祀に関する権利義務なども包括的に承継(財産の包括承継)されました。したがって、家督相続には法定相続分という概念はありません(*)。

家督相続の開始原因としては、戸主の死亡の他にも、戸主の隠居、戸主の日本国籍喪失、婚姻の取消や養子縁組の取消による戸主の離籍、入夫婚姻、入夫離婚などがあります。
家督相続の相続順位は下記のように決定されました。

順位家督相続人
第1位第一種法定家督相続人
被相続人と同じ家(戸籍)に属する直系卑属。
親等の近い者、男子優先、嫡出子優先、年長者優先の順。
ただし、胎児は既に生まれたものとみなされる。
第2位指定家督相続人
被相続人が指定した者。
第3位第一種選定家督相続人
家族の中から選定(配偶者、兄弟、姉妹の順)。
第4位第二種法定家督相続人
直系尊属(家にある者;親等の近い男系を優先)。
第5位第二種選定家督相続人
親族会が選定(被相続人の親族等の中から選定)。
適任者がいない場合は全くの他人を選定することも可能。

(*)法定家督相続人には、遺言によって家督相続人が指定された場合などに遺留分が認められていた(直系卑属である法定家督相続人の遺留分は被相続人の財産の2分の1、その他の家督相続人の遺留分は3分の1)。

遺産相続

戸主以外の家族が死亡した場合に、その者の財産を承継させる制度です。遺産相続の開始原因は死亡のみです。隠居した旧戸主が死亡した場合も遺産相続に該当します。
配偶者は直系卑属がいない場合に限り相続人となることや、兄弟姉妹は相続人にならないことに注意が必要です。

順位法定相続分注意事項
第1位直系卑属
親等の近い者が優先。
被相続人と同じ家にいなくても可。
継親子および嫡母庶子間でも遺産相続は発生する。
胎児は既に生まれたものとみなされる。
同順位の相続人が複数ある場合、
共有となる。
相続分は均等であるが、
非嫡出子は嫡出子の2分の1。
第2位配偶者
現在と異なり直系卑属に劣後する。
第3位直系尊属
近親が優先。
第4位戸主戸主が相続権喪失の場合は、
相続人不存在により国庫帰属。

2. 相続開始が昭和22年5月3日から昭和22年12月31日まで(応急措置法)

この期間は「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」(応急措置法)が適用されました。応急措置法は、日本国憲法(昭和22年5月3日施行)の理念(個人の尊厳、両性の本質的平等)と旧民法の矛盾を解消するための暫定的な措置として制定されました。

主な変更点

  • 家督相続に関する規定は適用されず、相続制度は遺産相続に一本化された。
  • 配偶者は常に相続人となった。
  • 兄弟姉妹が第3順位の相続人となった。
  • 兄弟姉妹の相続では、全血(父母の双方を同じくする)および半血(父母の一方を同じくする)の差異はなく、代襲相続も認められない。
  • 継親子関係や嫡母庶子関係は消滅した。

法定相続分

法定相続人および法定相続分は下記のとおり。

順位法定相続人法定相続分
第1位配偶者と直系卑属
配偶者:3分の1
直系卑属:3分の2
第2位配偶者と直系尊属
配偶者:2分の1
直系尊属:2分の1
第3位配偶者と兄弟姉妹配偶者:3分の2
兄弟姉妹:3分の1
  • 同順位の相続人間では、相続分は均等である。
  • 非嫡出子の相続分は、嫡出子の2分の1である。
  • 兄弟姉妹の相続では、全血および半血の差異は無く、代襲相続も認められない。

遺留分

遺留分は下記のとおり。ただし、兄弟姉妹には遺留分はない。

法定相続人遺留分
直系卑属のみが相続人
被相続人の財産の2分の1
配偶者と直系卑属が相続人
その他被相続人の財産の3分の1

3. 相続開始が昭和23年1月1日から昭和55年12月31日まで(新民法)

この期間には、昭和23年1月1日から施行された民法(親族相続編)が適用されます。この新民法は、旧民法の封建的・非民主的な要素を排除することを目的としたもので、家制度が解体され、個人を尊重する現代民法の基本的な枠組みが確立された重要な時期と言えます。

主な変更点

  • 家督相続制度が完全に廃止された。
  • 父母の一方を同じくする(半血)の兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする(全血)の兄弟姉妹の2分の1とされた
  • この期間の途中である昭和37年7月1日に重要な民法改正があった(同時死亡の推定規定の新設、代襲相続の範囲の明確化、相続放棄の効果の変更)。

法定相続分

法定相続人および法定相続分は下記のとおり(応急措置法下と同じ)。

順位法定相続人法定相続分
第1位配偶者と直系卑属
配偶者:3分の1
直系卑属:3分の2
第2位配偶者と直系尊属
配偶者:2分の1
直系尊属:2分の1
第3位配偶者と兄弟姉妹配偶者:3分の2
兄弟姉妹:3分の1
  • 同順位の相続人間では、相続分は均等である。
  • 非嫡出子の相続分は、嫡出子の2分の1である。
  • 父母の一方を同じくする(半血)の兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする(全血)の兄弟姉妹の2分の1とされた。
  • 兄弟姉妹にも代襲相続制度が認められるようになった。

遺留分

遺留分は下記のとおり。ただし、兄弟姉妹には遺留分はない。

法定相続人遺留分
直系卑属のみが相続人
被相続人の財産の2分の1
配偶者と直系卑属が相続人
その他被相続人の財産の3分の1

4. 相続開始が昭和56年1月1日から平成25年9月4日まで(新民法ー昭和56年改正)

この期間には、昭和55年法律第51号の民法の一部を改正する法律が、昭和56年1月1日から施行されました。この改正では、配偶者の相続分が大幅に引き上げられ寄与分制度が新設されました。配偶者の地位や貢献が重視されるようになり、相続制度を現代社会の家族観により適合されるように修正された時期と言えます。

主な変更点

  • 配偶者の法定相続分の引き上げられた。
  • 遺留分割合が改定された。
  • 寄与分制度が新設された。
  • 兄弟姉妹の代襲相続において、甥・姪までに限定されることが明確化された。

法定相続分

法定相続人および法定相続分は下記のとおり。

順位法定相続人法定相続分
第1位配偶者と直系卑属
配偶者:2分の1
直系卑属:2分の1
第2位配偶者と直系尊属
配偶者:3分の2
直系尊属:3分の1
第3位配偶者と兄弟姉妹配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1
  • 同順位の相続人間では、相続分は均等である。
  • 非嫡出子の相続分は、嫡出子の2分の1であった。ただし、平成13年7月1日以降に開始した相続については、平成25年9月4日最高裁の決定により、(その当時から憲法違反であるとして)嫡出子と同等の相続分として処理されることとなった
  • 父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1とする規定は維持された。

遺留分

遺留分は下記のとおり。ただし、兄弟姉妹には遺留分はない。

法定相続人遺留分
直系尊属のみが相続人
被相続人の財産の3分の1
その他被相続人の財産の2分の1

5. 相続開始が平成25年9月5日から現在まで(新民法ー平成25年改正)

この期間には、平成25年法律第94号による民法の一部を改正する法律が、平成25年12月11日から施行されました。

主な変更点

  • 嫡出子の相続分が嫡出子と同等になった。この改正は、平成25年9月4日の最高裁判所大法廷の違憲決定を受けてのもので、遅くとも平成13年7月当時から憲法違反であると判断されたため、平成13年7月1日以降に開始した相続にも遡及的に適用されます。ただし、既に遺産分割の審判、協議などにより確定的なものとなった法律関係には影響しません。
  • その後、平成30年の民法及び家事事件手続法の一部改正により、配偶者居住権の創設、遺産分割の見直し、遺言制度の見直し、遺留分の見直しなど、さらなる改正が行われています。

法定相続分

法定相続人および法定相続分は下記のとおり。

順位法定相続人法定相続分
第1位配偶者と直系卑属
配偶者:2分の1
直系卑属:2分の1
第2位配偶者と直系尊属
配偶者:3分の2
直系尊属:3分の1
第3位配偶者と兄弟姉妹配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1
  • 同順位の相続人間では、相続分は均等である。
  • 非嫡出子の相続分は、嫡出子と同等になった。
  • 父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1とする規定は維持された。

遺留分

遺留分は下記のとおり。ただし、兄弟姉妹には遺留分はない。

法定相続人遺留分
直系尊属のみが相続人
被相続人の財産の3分の1
その他被相続人の財産の2分の1

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この記事を書いた人

なか司法書士事務所
司法書士 中 英康
札幌市中央区(狸小路7丁目近く)の司法書士事務所で代表を務める。
一般個人向けに相続手続・生前対策・不動産登記全般、法人企業向けに経営基盤整備支援・経営者の相続支援・商業登記全般を取り扱う。