生前対策メモ

生前対策メモ ー 生前対策の手法

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生前対策を考える視点

“点”の対策では不十分な場合も

生前対策と言っても、終活に代表されるようにさまざまな考え方や施策があります。身の回りのものを処分する、エンディングノートを作成する、遺言を作成するなどは、その代表的なものです。
ただし、思い付きで何らかの対策をしても、”点”の対策になってしまうことがあります。例えば、エンディングノートでは遺言とは異なり法的拘束力を認めることは難しく、ご本人の要望を遺族等が実施してくれるとは限りません。遺留分を無視して全財産を子のうちの一人に相続させる自筆証書遺言を残したとしても、財産をもらえない子がご本人の意向を尊重するとは限りません。
遺言を作成しただけでは、死後の対策としては有用ですが、後述する死後事務や老後の対策はできていないということになります。

法的にも配慮された”線”の対策を

この生前対策では、終活をはじめる上で、老後から死後における一連の時間の流れを”線”としてとらえて、ご本人の意思や想いを法的な施策に落とし込むことで、将来の起こりうるトラブルを事前に予防することを目的としています。
身の回りのことや財産に関することを対象とし、ご本人のみならずご家族にとっても、安心感のある生前対策を考えるためのきっかけとしていただきたいと思います。

生前対策の一例(遺言・死後事務委任・任意後見・民事信託等)

下図は生前対策の一例を表したものです。対策実施~老後~死後に至るまで、遺言作成・生前贈与・死後事務委任・任意後見などさまざまな施策があります。

生前対策には、遺言の他に生前贈与、民事信託、任意後見、死後事務委任などがあります。

生前対策の全体像

 

遺言・生前贈与・民事信託

遺言は、ご本人の死亡によって効力が発生しますから(民法985条1項)、財産の相続手続き(遺言執行)の場面に適用されます。つまり、ご本人の死亡から遺言執行の終了までの限定的な範囲となります。
より時間的範囲を拡大するには、生前贈与の手法もありますし、ご本人の死亡による相続・その相続人の相続(二次相続)等の財産管理・分配を指示できる民事信託の手法もあります。

死後事務委任

本人の死後の様々な事務的作業(葬儀、お墓、公共料金等各種契約の解除)を、死後事務委任により託することができます。
なお、遺言にこれらの事項を記載することは可能ですが、法的拘束力は無いので、単なるお願い事項になります。よって、確実に本人の希望が実施されることを担保するためには、死後事務委任を利用すべきです。

任意後見

万が一認知症になった場合に備えるために任意後見制度を利用する方法があります。老後の身のまわりに関する支援として、ぜひ検討したい施策です。

生前対策の施策 ー 支援時期と支援内容の観点

生前対策事項の分類

生前対策の項目を支援時期と支援内容により分類すると、下図のようになります。

生前対策の整理

■横軸「支援時期」について

老後の対策

心身ともに健康で過ごせることに越したことはないものの、万が一の病気やケガ、認知症等のリスクを考慮に入れて支援するもの。

死後の対策

本人の死後に葬送に関することや相続財産の分配等が本人の意思どおりに実現されるように支援するもの。

■縦軸「支援内容」について

身のまわりの支援

日常生活に必要な現金管理、医療・介護に関する手続き、各種サービスの手続き、死後の事務手続きなどの身のまわり全般を支援するもの。

財産管理の支援

相続による財産の分配、定期預金等の財産管理、収益不動産の管理など、財産管理全般を支援するもの。

 

生前対策の施策

下図は、生前対策事項の分類と生前対策の施策の対応関係を示したものです。
死後の対策では遺言と死後事務委任契約の組合せ、老後の対策では任意後見契約・財産管理等委任契約・見守り契約の組合せにより、包括的な生前対策を施すことができます。

生前対策の手法

上記を時の経過で整理すると、下図のようになります。なお民事信託等も加えています。

老後の対策と死後の対策

 

生前対策 ー ①死後の対策

死後の対策では、遺言と死後事務委任契約の組合せが効果的です。
例えば”葬儀費用”は死後事務委任契約で定めておくことで、相続人間のトラブルを防止することができます。

遺言

遺言の詳細については、「生前対策メモ」の「遺言」に関する情報をお読みください。
遺言の概要遺言作成の心得自筆証書遺言公正証書遺言遺言内容の検討方法について記載しています。

死後事務委任契約

葬儀・納骨・遺品の処分など死後の様々な事務処理について、本人の遺志を託すための契約です。
親族が高齢の方、一人暮らしの方、面倒な事務処理を第三者に任せたい意向のある方は、死後事務委任契約を検討ことをお勧めします。
死後事務委任の詳細については、「生前対策メモ」の死後事務委任に関する情報をお読みください。

 

生前対策 ー ②老後の対策

老後の対策

老後の対策では、認知症対策として任意後見契約を基本に置きます。
必要に応じて①財産管理等委任契約+任意後見契約の組合せ、②見守り契約+財産管理等委任契約+任意後見契約の組合せで対策します。

なお、財産管理等委任契約は、任意後見を適用する前段階として、判断能力はしっかりしているものの病気やケガ等で日常生活に支障がある場合に利用する契約になります。

また、親族が遠方にいる場合等は、見守り契約を利用することも検討の余地があります。その後の財産管理等委任契約や任意後見契約の適用に切れ目のない対策をはかることができます。

任意後見契約

判断能力がしっかりしている間に信頼できる方(任意後見受任者)と契約を結び、将来認知症等で判断能力が衰えた時に当契約を発効させ、任意後見人に日常生活・財産管理・療養介護等の手続きを委託するための契約です。なお、契約締結時の任意後見受任者は、契約の発効により任意後見人となります。

任意後見人の候補としては、親族(子、おい・めい、兄弟姉妹等)、知人、専門家(弁護士、司法書士等)が考えられます。

同様の制度で法定後見制度があります。法定後見制度では法定後見人に親族を希望することは可能ですが、必ずしもその親族が後見人に選任されるとは限りません。法定後見を申請する段階で本人の意思等が不明なため、硬直的な運用にならざる得ないようです。
一方、任意後見制度では本人が(判断能力がしっかりしている間に)後見人を指定しますので、本人の意思を最大限くみ取ることが可能になります。
任意後見契約の詳細については、「生前対策メモ」の任意後見契約に関する情報をお読みください。

財産管理等委任契約

判断能力に問題はないものの、病気やケガ等で身体が不自由になった場合に財産管理・療養看護に関する代理を行ってもらうための契約です。

この委任契約は”財産管理等”ですから、財産管理に限らず、預貯金の払戻し・振込依頼等、日用品の購入、医療・介護等に関する契約の締結等の代理を行ってもらうことが可能です。契約締結時に、代理の範囲を定めた目録を作成します。

見守り契約

任意後見契約や財産管理等委任契約締結の際、これらの契約を直ちに発効させない場合に、本人の健康状態や財産管理状況を把握するために別途締結される契約です。月1回の電話連絡や家庭訪問などが一般的です。

 


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